実家を出てすぐ、母は、
「晩御飯しばらく毎日作って持って行ってあげるわ。
お母さんの、せめての罪滅ぼし。」と申し出た。
私達が出て行った後、母はやはりショックで、
恐らくこのままでは孫にも会えないと思ったのだろう。
晩御飯を作って持っていくことを思いつき、父に相談したら
おまえの気のすむようにしたらええ。と言われたんだそうだ。
この申し出は、ありがたく受けることにした。
私はまだ退院して幾日も経っておらず
家事なんて何もできる気がしなかったし、かといって
栄養をきちんと取らなければ、母乳が十分に出ないのだから。
掃除洗濯洗い物や買い物など他の家事は夫がやると
言った。私は正直そんなに期待していなかったが
夫は本当によくやってくれて、私は少し感動した。
今までの彼は、家事をお願いしても後回し、
やってもうまくできないことが多かったけれど
父になった彼は、やはり今までとは違っていた。
だから私は赤ちゃんの世話だけに集中することができた。
夕方になると母が夕飯を持ってやって来た。
そのついでに、娘を見ていくこともたびたびあった。
ある日私が2階 (アパートはメゾネットタイプだった)の寝室で
授乳をしている時に母がやって来て
迎えた夫に「ちょっとちょっと。頼まれてるものあるから上上がらせて
もらうな。」と言って頼んでいた布団を持って上がってきた。
そして母は、孫の顔を見る為に
私が娘を抱いて座っている布団の上に上がってきた。
私は
「そんな外着のままでここ上がらないでよ。
この部屋は無菌にしてるんやから!」
と言った。
その時はさっと引き下がった母だったが
あとあと、あんなこと言ってお母さんをばい菌扱いして!と
言われたので、ショックだったみたいだ。
私は、とても神経質になっていた。
1日中パジャマのままで、娘の世話だけして
赤ちゃんを菌から守らなければ、と思い詰めていたので
外からやってきた母が、それこそばい菌に見えた。
夫は、外から帰った時と、たばこを吸った後
必ず手洗いうがいをしてから娘のところに来たが
母は手洗いもしていなかったから。
母が娘を抱くと、なぜだか嫌悪感が走った。
無意識におしりをペシペシ叩く母の癖。
執着たっぷりに孫を見つめる母のしわしわの顔。
毎日毎日、玄関を開けるたびに
「(孫)ちゃんは?元気?昨日寝てくれた?」と聞かれるのも
うんざりだった。
そんなにしつこく元気なのか寝たのか確認するなんて
寝てくれなかった。という返事を期待してるみたいだ、と思った。
だから私の返事も、だんだんとおざなりになっていった。
そして母は、また夫に不愛想になっていった。
それでも母は1か月間、私達に毎日夕飯を持ってきてくれた。